ロングスロー論争にみる、スポーツの価値 ~得点機会を増やす重要性~
1 高校生にふさわしくないという批判
先日、山梨学院大学優勝で幕を閉じた高校サッカー選手権において、ロングスローを多用する戦術について、一部から批判があり、若干論争のようになりました。
この問題について、念の為に説明しますと、一般的には、サッカーのスローインはある程度近くの味方選手に向かってボールを投げてゴールを目指していくのに対して、ロングスローは40メートルほど離れていてもゴール前のヘディングの強い選手にめがけて放り込むことにより、一気にチャンスを迎えられるという戦術です。
なぜ、わざわざこのようなことを説明したかといえば、説明すれば、ルール上は当然認められている何ら問題ない戦術だからです。
サッカーをある程度みている人であれば、イングランドのプレミアリーグでデラップという選手がこのプレーで一躍有名になったことを知っていますし、プロになったら役に立たないといった批判もしません。
参考記事:ヴェンゲルが嫌ったデラップ砲も根付いてはいない。英国人記者が読み解くロングスローの意義
むしろ、日本のサッカーにとっては、使い方によって大きな武器になるかもしれません。おそらく、高校生がこれだけロングスローの練習をしている国はないのではないでしょうか。
また、実際に試合をみた人はわかっていると思いますが、一番批判された青森山田高校もロングスローに頼ったサッカーをしているわけではありません(ちなみに、ベスト4に残ったチームが全てロングスローを使っていましたので、青森山田高校だけ批判されるのはおかしいです。ロングスローを多用するから、高校サッカーのレベルが上がらないという等ということもないわけです。
結局のところ、この問題の根本には、結果にばかりこだわっているようで高校生らしくない、という発想があるのだと思います。
しかし、国立競技場で行われて、これだけテレビ中継もされるような大会について、今さら高校生らしさを求めるというのは違うのではないかというのが私の考えです。
2 得点機会が増えることの重要性
今回の話の中でほぼ話題になっていませんでしたが、私がロングスローの多用について、問題がないどころかむしろ望ましいと考えているのは、ロングスローの多用により得点機会が増えたという点です。
スポーツの価値の中で、やはり見ている人を楽しませるエンターテイメント性は大きなポイントです。特にこれだけ娯楽が多様化しており、スマートフォン上ではつまらない動画は3秒すらみてもらえない中で、長い時間かかるスポーツをいかに飽きさせずにみてもらえるかというのは極めて重要な問題だと思います。
サッカーを含む得点を取り合う競技において、特にそのスポーツに詳しくない一般の人が盛り上がれるシーンはやはり点が入るシーンです。
一方で、サッカーは基本的には、点が入らないスポーツです。高校サッカーは点差がつくことも多いですが、プロのレベルになれば1試合平均2点以下のチームがほとんどです。
もちろん、そこがいいんだという見方もありますし、点が入る機会が少ないからこそ点が入った場合に盛り上がるという面はあります。
しかし、やはり、0-0で終わった場合に、サッカーに詳しくない一般の人に本当に楽しかった思ってもらえるかというと、やはり難しいのではないかと思います。
実際、そういった点も面もあって、サッカーのルール改正も、基本的には点がを入りやすい方向で変更されてきていると思います。
個人的には、0-0が続くこともあれば、どさっと点が入ることもある、野球はバランスがいいかと思います。
一方、日本人にはなじみうすいですが、クリケットは、逆に点が入りすぎて、みる方としては1プレー当たりの集中が落ちるという面もあるかと思います。
サッカーの現場レベルとしては、高いレベルで勝っていくには守備から入っていかざるを得ない面がありますが、エンターテイメントという面からみれば、得点機会が増える方向性は望ましいかと思います。
プロ野球選手、元サッカー日本代表選手等の個人・法人の顧問、トラブル相談等を多数取り扱う
著作:「アスリートを活用したマーケティングの広がりとRule40の緩和」(東京2020オリンピック・パラリンピックを巡る法的課題(日本スポーツ法学会編)
・一般社団法人スポーツキャリアアドバイザーズ 代表理事
・トップランナー法律事務所 代表弁護士(東京弁護士会所属)
・日本サッカー登録仲介人
・日本プロ野球選手会公認選手代理人
・日本スポーツ法学会会員